年配者の言ったひとこと
「誰もいないところへ行きたい」
御年74歳女性が私にふともらした言葉。
定年まで働いて、結婚せず、子供もいない。
すでにリタイアし、悠々自適に暮らしていそうなイメージだった。
6人兄弟のうち2人が早くに無くなり、残った4人の一番上。
一番下の弟が知的障害・双極性障害・糖尿病を患い、知的障害支援施設で入所生活を送っている。
その他2人とは、もともと仲が悪く音信不通。
だから弟の世話は何かとこの方がしていた。
きっと苦労も大きかったのだろう。
でも、その苦労をわかちあえる兄弟とは疎遠。
身近な親族が誰もいない。
「人生はいろいろあるわよ。私もね、大波小波、たくさん越えてきたわ」
「悪いこともいっぱいある、でも悪いことばかりではなく、いいこともいっぱいある」
人生の大先輩の彼女がこう言った。
年配の方が言うと本当に説得力がある。
悪いこともあればいいこともある。
確かにそうだ。
その対局的な波打つグラフはまるで双極性障害の躁と鬱みたいだな、と思った。
だが最後に彼女は前出の言葉を言ったのだ。
誰もいないところへ行きたいと。
旅行好きなことは聞いていたので、てっきりどこかへ旅行へ行きたいという意味だと思った。
「落ち着かれたら、のんびりどこかへ行くのもいいかもしれませんね」
だが彼女の真意は旅行ではなかった。
「違うのよ、住んでる家もなにもかも放って、誰もいないところへ行きたいのよ」
それって。。。と思ったが口には出さなかった。
「なんて、そんなところはないし、一人でふらふらしてたら、テレビでこの人知りませんか、ってニュースになっちゃうわね。テレビで見ても私って言わないでね」
と、冗談なのか本気なのか、くすくす笑いながらそう言った。
年をとると、これまでの人生振り返って、いろんなことがあったけど、まだまだ生きたい!という人が以前は多くいた。
けれども最近は、違う。
もう、十分だ。そう言う高齢者が増えたように思う。
世の中はひと昔前とは大きく変わった。
これからもっと変わっていくことだろう。
今の時代、生きていくことの大変さを、彼女の言葉に重く感じた。
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