躁の最後に見たもの~黒い傘の男~その2
前回の~黒い傘の男~その1はこちら↓
「はい、警察です。どうされましたか?」
ひととおり状況を説明し、場所も話した。
こちらとしてはいち早く現場に来てほしいのに、電話のやりとりはとてもスローだ。
私は気が動転していたから、支離滅裂だったのかもしれない。
何回も早く来てくださいと言った。
早く、早く、警察来て! そしてあの男を職務質問して!!
心の中で叫びながら。
電話の相手は「あなたは鍵をしめて部屋に入ってください。大丈夫です、すぐに警官が向かいますから」と言って電話を切った。
会話の中で、危害を加えられたわけではないことを確認されたあたりから、緊急ではない対応になってしまった気がした。
私はマンション2階の階段の塀に隠れたまま、警官を待った。
黒い傘の上の部分だけを見続け、男を見張りながら。
5分経っても警官は来ない。
雨だから、カッパでも着てそれからの出動になるのだろう。
こっちは一刻を争う気持ちで待っているのに。
このとき、私は子供のことを心配していた。
今回取り逃がしたら、後日、子供になにかあるかもしれない。
そう思ったのだ。
私自身はどうにでもなる。下の子も常に私が送り迎えで一人になることはないので大丈夫。でも上の子は小学生で、しかも女の子だ。
学校から帰ってきたときに私がいなかったり、友達と遊びに行って夕方帰ってきたときに私がいなかったり、一人になってしまうことが多い。
そんなときにこの男が現れたら。。。
守りきれない!
そう思った。
だから、今、確実に男が一体何者なのかを警察に確認してもらいたかった。
1分が異様に長く感じた。
心臓の鼓動はバクバクのままだ。
まだ警官はこない。
一体何をしているんだ。
すでに10分以上経過していた。
そのとき、男の傘が動いた。
立ち上がったのだ。
私はとっさに階段の塀に全身を隠した。
道路は下り車線側なので、男も当然高架の下り方向へ行くと思っていた。
だから一応その方向だけを目視することができる位置で。
そのとき、階段を上ってくる足音がした。
思わず振り返り、人影を見たとたんに「ひゃっ」と小さく叫んでしまった。
上の階に住む女性だった。
「(驚かせて)すみません(汗)」と謝った。
ハッと、男のいたところを確認する。
いない!
傘男の姿がない!!
私が女性と鉢合わせたのは一瞬、本当に一瞬だったのに、
傘男の姿は忽然と消えていた。
男が居た高架道路は、上り方向はそのまま川を渡る橋になっている。
上り方向へ歩いたとしたら、左手は車の往来の激しい三車線の道路、右手は崖というか、高架の塀で、飛び降りなければ下には降りる道がない。
下り方向は私が見続けていたので、そちらに歩いたはずはない。
ほんの数分で、上り方向の道を渡りきれるはずはない。
私は階段の塀に身を乗り出して、上り方向の歩行者通路に傘男の影を探した。
続く。。。
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