躁の最後にみたのも~黒い傘の男~その3
前々回その1,前回その2はこちら ↓
私は2階の階段の塀から身を乗り出して、高架道路の上に目を凝らした。
「絶対いるはず!影が見えるはず!」
人が歩いていれば車のライトに当たってそのシルエットが浮かびあがる。
けれどもいくら探しても、傘男の姿はなかった。
高架道路には側道があって、私の住んでいたアパートの前を通っている。
「飛び降りたのか?」
念のため、側道も見た。
やはりいない。
高架道路から側道へ降りるには、約10mの塀を飛び降りなくてはならない。
スタントマンじゃあるまいし、普通の人には無理だ。
まだ警官は来ていなかった。
諦めた私は階段をあがり、自分の部屋のある3階へ。
3階にあがってからもう一度高架道路を確認した。
車が行き交うだけで、やはり人影はない。
そして部屋を戻ろうとしたそのとき、階段の下から足音が。。。
姿を現したのは、白いシャツ、黒いチノパンの細身の男。
私は固まった。
まさか。。。
うつむきながら階段をあがってくる男は私に気をとめることなくすれ違い、
そのまま4階へとあがっていった。
が、4階へ続く階段の踊り場で、一瞬私の方を振り返った。
そして冷たく、刺すような視線で私を一瞥すると、そのまま4階に姿を消した。
恐怖で全身に悪寒が走り、私はその場で腰をぬかした。
だめだ、部屋にもどらなきゃ。。。
こういうとき、本当に身体は震えるのだと実感した。
足がおぼつかない。
震える手でなんとか玄関の鍵をあけ、中に入った。
男が追ってくるような気がした。
中から鍵をかけ、チェーンもし、これ以上ないくらい早い心臓の鼓動をなんとか押さえながら、おそるおそる玄関ののぞき穴から外を確認した。
人影は無かった。
高架道路の傘男と、さっきすれ違った男の風貌はそっくりだった。
でも、すれ違った男は傘を持っていなかったし、あんまりぬれていなかった気がする。
あれだけの時間雨の中傘を持っていたとはいえ、つっ立っていたらびしょ濡れになるはずだ。
違う男なのか?
階段をあがってきた男はこのアパートに住んでから一度も見たことのない男だった。
住人ではない。
ベランダからも外を確認した。
人影はない。
そのとき、下の道路にやっと警官が2人バイクでやってきた。
事情を説明すると、男を捜しながら周辺をパトロールしてくれることになった。
私は部屋から出ないようにと念をおされた。
どうしても気になって30分ごとにベランダ側の窓、玄関ののぞき穴から外を確認した。
結局その夜は一睡もできなかった。
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