躁の最後に見たもの~黒い傘の男~その1
現在は比較的落ち着いていて、のんびり生活できているが、
ボーッとしていると、ふと躁と鬱のときのことを思い出す。
あれは一体なんだったのか、と。
鬱のどん底で記憶力が半端無く落ちたせいか、躁の楽しかった日々も、
夢でみたことのようにぼやけた記憶しか残っていない。
だから断片的にしか思い出さないのだが、
その中でも一番の「あれは一体なんだったのか」が、
「黒い傘の男」だ。
仕事子育てに追われ、全速力で約1年半走り続け、
いつまでこの生活が続くのだ、もうダメだ、とおかしくなりかけていた頃に、
とあることで大ショックをうけ、とうとう一睡もできなくった日のこと。
当時、子供と3人、高架になった片側三車線の幹線道路に面した古いアパートに住んでいた。部屋が3階で、ベランダが道路からまる見えの位置にあった。
幹線道路なので歩行者はまずいない。自転車でサーッと通るくらいであとは車ばかり。住み始めたころは、こんな丸見えのところでストーカーなんかされたらどうしよう。なんて、いらぬ心配をしたものの、1年以上そこに住んでいて、これまで何も問題はなかった。
なのに、あの夜、あの雨の日、とある出来事に大ショックを受け、どん底に陥り精神的にボロボロだったあの夜に、その男は現れた。
夜、いつも通り洗濯物を干そうとベランダに出たとき、ふと視線を感じて振り返ると、幹線道路の歩行者用通路に黒い傘を持った男が、こちらを向いて立っていた。
そして私がその男に気づいたのを知ってか、その位置のまま今度は車の走る方を向いた。
が、その場を動かず。
雨が降っていた。
傘をさしているのは普通。
だが、そこにとどまっているのは明らかにおかしい。
行き交う車を見ているのか?雨の日にそんなところで?
誰かと待ち合わせ?そんなことをするような場所ではない。
車で誰か迎えにくるのか?お迎えに指定するような場所でもない。
黒い傘、白いシャツ、黒っぽいズボン。夜なので顔までは見えなかった。
最初はおかしな人もいるもんだと洗濯ものをサッと干してすぐ部屋に入った。
その30分後、車に忘れ物を取りにいくために玄関から出ると、
なんと、その傘男はまだそこに立っていた。
もう途端に恐怖に襲われた。
心臓がバクバク、でもここで取り乱すわけにはいかない、男がいるのは高架道路の上。すぐにこっちに来れるわけではない。
私はさも気にかけないふりをして、でも急いで1階の駐車場へ行き、車から忘れ物を取って、それとなく見上げると、こっちを見てる。
私はそのまま見続けた。お前に気づいているぞ!とでもいうように。
するとその傘男は、くるりとまた車の走る方を向き、こちらに背を向けて、今度はその場にしゃがみこんだのだ。
私は階段を2階まであがり、階段の塀に隠れて、携帯から110番した。
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